移転価格解説

中国の移転価格税制

近年の動向

中国

2019年5月26日更新

中国においても引き続き移転価格については高い関心を示しており、近年ホットトピックとなっている。 APAの申請件数も引き続き増加傾向にあり、体制の強化を図っているが、関連規定整備後においては新規定に基づく移転価格対応の強化が図られることが見込まれ、納税者に相当の準備が求められることになることが予想されている。

基本情報

①税務当局

国家税務総局(State Administration of Taxation, SAT)を中心に、各省の税務当局により移転価格税制の執行が行われている。

②移転価格税制の対象取引

25%以上の株式につき直接・間接の保有関係のある関連者との取引。

また、実質的に支配関係にある場合にも課税対象となる可能性がある。

③文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)

Ⅰ.マスターファイル

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業はマスターファイルを作成する義務がある。①年度に関連者間の取引を行っており、且つ当該企業が所属する企業グループの最終持株会社がすでにマスターファイルを作成している場合、②年度の関連者間取引総額が10億人民元を超えている場合。
  • 対象初年度:2016年
  • 期限:会計年度終了から12か月内に準備、税務機関の要請から30日以内に提出。
  • 使用言語:中国語
  • ペナルティー:1万人民元
  • マスターファイルの義務はBEPS Action 13のガイダンスを反映している。追加条件として国別報告書の提出者の企業名、所在地を報告する義務がある。

II.ローカルファイル

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業はローカルファイルを作成する義務がある。①年度の関連者間有形資産取引額が2億人民元を超えている場合、②年度の関連者間金融資産取引額が1億人民元を超えている場合、③年度の関連者間無形資産の所有権譲渡金額が1億人民元を超えている場合、④その他の関連者間取引額が4000万人民元を超えている場合。
  • 対象初年度、使用言語、ペナルティーは、マスターファイルと同じ。会計年度終了から6か月内に準備、税務機関の要請から30日以内に提出。
  • BEPSローカルファイルの項目に加えてバリューチェーン、ロケーションセービングス等の分析が必要。

III.国別報告書

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業は国別報告書を作成する義務がある。①当該企業が企業グループの最終持株会社であり、且つ前年度の連結売上高が55億人民元を超えている場合、②企業グループにより指定された場合。
  • 対象初年度:2016年
  • 期限:PRC Annual Reporting Forms on Related Party Transactionsと併せて、当該年度の翌年5月までに提出。
  • 使用言語:中国語、英語。提出のフォーマットはOECD指定のXML Schema。
  • 代理提出:国別報告書の親会社代理提出を認めている。
  • 当該企業は税務機関に最終持株会社の企業名を翌年5月に提出されるRTP Formにて報告。
  • ペナルティー:1万~5万人民元

④移転価格に関するその他の開示義務

申告書において、関連者の情報、関連者間取引(売買取引、役務提供取引、金融取引、有形・無形資産の移転に関する情報等)、特定外国子会社、対外支払取引等に関する情報を開示しなければならない。

⑤移転価格算定方法

CUP法、再販売価格基準法、原価基準法、TNMM、利益分割法及びその他の方法が認められている。 移転価格算定方法について法的な優先順位は無いが、伝統的な取引基準法(CUP法、再販売価格基準法、原価基準法)が適用できる場合には、それらが最も直接的で信頼性の高い算定方法であると考えられている。

⑥比較対象会社の選定

中国の企業が望ましいが、中国限定では選定できない場合、汎アジア地域などに対象を広げることも認められる。

⑦移転価格課税の時効

取引が行われた年度から10年間

⑧罰則等

延滞税として中国人民銀行のRMB貸付基準金利+5%が課される。 但し、同期文書の準備がある場合、+%の延滞税が免除される可能性がある。

⑨相互協議・APA

現在申請件数が増えているものの、処理が追いついていない。 制度的にはユニラテラルAPA、二国間APA、多国間APAともに可能であるが、合意に至るには困難が予想される。