ベトナムの移転価格税制
【近年の動向】 (2019年5月26日更新)
Article 37において、独立企業原則について定められており、税務当局は取引価格を独立企業間価格(=市場価格)に引きなおして課税を行うことができるとされている。
詳細な移転価格税制はDecree 20/2017/ND-CP (Decree 20) 及びCircular 41/2017/TT-BTC (Circular 41)で定められている。 Decree 20 及びCircular 41は 2017年5月1日より有効となっている。
【基本情報】
①税務当局
Ministry of Finance, General Department of Taxation (GDT)
②移転価格税制の課税対象
一定の形式基準及び実質基準を満たす国内外の関連者間取引
関連者の定義は多岐に渡り、例えば以下の関係がある企業は関連者とみなされる。
◆一方の当事者が他方の当事者の 25%以上の持分を直接又は間接に保有する関係
◆双方が、第三者の持分の 25%以上を直接又は間接に保有する関係
◆資本の 25%以上、または中長期債務の 50%以上を貸付または債務保証している関係
◆重要な人的関係、取引関係、実質的な支配関係がある関係 等
③OECDガイドラインとの整合性
公式には定められていないが、OECDガイドラインを参照することは可能であり、Decree 20 及びCircular 41はBEPSプロジェクトのコンセプトを採用している。
④文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)
I.マスターファイル
- 免除条件:①売上高500億ドン未満(約2.4億円)かつ関連者間取引総額が300億ドン未満(1.4億円)②APA締結済み、③売上高2,000億ドン未満(9.6億円)、かつ限定された機能での事業内容、かつ以下の売上高EBIT比率を満たす場合:販売機能5%以上、製造機能10%以上、加工機能15%
- 対象初年度:2017年
- 期限:年度の税務申告期限前に準備、税務機関の要請に応じて提出。
- 使用言語:ベトナム語。提出フォーマットに関しては、XML Schemaは採用されていない。
- 罰則:税務行政法に従いペナルティーが算定される。罰金は追徴課税額の10%又は20%、2016年7月1日以降の遅延利息は0.03%/日(課税年度の法令に従い決定)で算定。指摘事項の背景、状況によっては、悪質な罰金として追徴課税額の100%から300%が課される可能性がある。
II.ローカルファイル
- 対象初年度、期限、使用言語、罰則はMFと同じ。
- 免除:下記のいずれかの条件に合致する企業はローカルファイルの作成が免除される。
- ①年度の売上高が50 billion VND以下であり且つ、関連者間取引額が30 billion VND以下である場合
- ②納税者の事業活動が単純又は利益の源泉となる無形資産を所有していない且つ、年度の売上高が200 billion VND以下で且つ、卸売業の場合には営業利益率が5%以上、製造業の場合には10%以上、加工業の場合には15%以上である場合、
- ③APAを締結しており、年次報告書を提出している場合。
III.国別報告書
- 条件:年度の連結総収入金額が18,000 billion VNDを超えている多国籍企業。当該条件は外国親会社の在ベトナム子会社にも適用される。
- 対象初年度、期限、使用言語、罰則はMFと同じ。
- コピーの提出:海外の最終的親会社の国別報告書の提出状況に拘らず、在ベトナム子会社は国別報告書のコピーを提出する義務がある。
- 代理提出:国別報告書の親会社代理提出は認められていない。
④移転価格に関する開示義務
毎年の法人税申告において、Form1という別表で関連者間取引の内容や取引金額等の開示が求められる。開示を怠った場合、税務調査に発展する可能性がある。
Form2はローカルファイルに関するチェックリスト
Form3はマスターファイルに関するチェックリスト
Form4はCbCRに関するチェックリスト(ベトナムに所在する最終親会社で連結総収入が18,000 billion VNDを超える場合)
開示義務が満たされていない場合、700,000VND~5millionVNDの罰金が課される可能性がある。
⑤移転価格算定方法
独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、利益比準法及び利益分割法。算定方法について法的な優先順位は無いが、一般的に伝統的な取引基準法(CUP法、再販売価格基準法、原価基準法)が適用できる場合には、それらが最も直接的で信頼性の高い算定方法であると考えられる。
また、納税者は証拠文書をもって、最良の方法(いわゆるベスト・メソッド)を適用している旨を明らかにすることとされている。
⑥移転価格課税の時効
一般的なルール(違反が発見された日から10年間)が適用される。
⑦罰則等
企業が誤った申告をした場合には、延滞利息(1日あたり0.03%)に加え、過少申告税額の20%を上限とする罰金が課される。不正又は脱税とみなされた場合には罰金は100%~300%となる(例えば、申告が90日以上遅れた場合は脱税と見なされるほか、関連者間取引に係る別表による申告をしなかった場合や移転価格文書の準備をしなかった場合にも100%~300%の罰金の対象になる可能性がある)。
⑧相互協議・事前確認申請(APA)
相互協議:租税条約のネットワークはあっても、相互協議の経験はほとんど無く、二重課税の解消は困難である。
APA :ユニラテラルAPA、二国間APA、多国間APAが可能。最大5年間分+最大5年間の延長が認められる。
但し、経験がつみあがるまで合意に至るには時間がかかることが予想される。
⑨使用言語
移転価格文書はベトナム語(他の言語で作成された文書はベトナム語に翻訳しなければならない)。