マレーシアの移転価格税制
【近年の動向】(2019年5月26日更新)
2003年にOECDの考え方に沿った移転価格に関するガイドラインが導入されているが、2012年には当該ガイドラインがアップデートされるなど、時流に合わせて移転価格税制を改正・整備してきている。また、2014年以降は申告時に移転価格文書を準備しているか否かを申告させる規定が導入されるなど、移転価格税制は強化傾向にあると言える。
なお、2011年6月以降はForm MNE [1/2012]を導入し、特定の企業から国外関連者間取引に関する詳細情報を集めている。そして2017年6月に移転価格ガイドラインがアップデートされている。
継続的に赤字を計上している会社、利益率の低い会社、利益率の変動の激しい会社、国外関連者間取引金額の大きい会社は調査の対象となりやすい。また、グループ内役務提供取引については、特に注視される傾向にある。
【基本情報】
①税務当局
Lembaga Hasil Dalam Negeri / Malaysian Inland Revenue Board(MIRB)
②移転価格税制の課税対象
以下の関係がある者の間で行われる取引。
◆支配関係(例:50%以上の株式(被)保有関係、実質支配関係、共通の者に支配される関係)
◆親戚関係
③文書化義務
I.国別報告書
- 条件:年度の連結総収入金額が3 billion RMを超えている多国籍企業。当該条件は外国親会社を持つ在マレーシア子会社にも適用する。
- 対象初年度:2017年1月1日以降に開始する会計年度。
- 期限:会計年度終了から12か月以内に提出。
- 使用言語:英語、マレー語。提出フォーマットは、OECD指定のXML Schema。
- 代理提出:国別報告書の親会社代理提出を承認。
- 通知:会計年度終了までに税務機関に通知。
- 罰則:20,000~100,000 RM以下のペナルティー、6か月以下の懲役。
II.マスターファイル
- BEPS Action 13のマスターファイルについてのガイダンスは、現時点では法令に組み込まれていないが、将来的に導入する予定。
- 対象初年度:2017年1月1日以降に開始する会計年度。
- 期限:税務機関の要請から30日以内に提出。
- 使用言語:現行文書化と同様に言語は英語又はマレー語だと想定される。
III.ローカルファイル
・総収入金額が25百万MYR以上、又は国外関連者間取引が15百万MYR以上又は金融取引が50百万MYR以上である場合には、ローカルファイルの作成及び保存が求められる。
・英語又はマレー語で作成。
・税務当局からの要求があった場合、30日以内に提出しなければならない。
④移転価格に関する開示義務
関連者との取引に係る情報(粗利、税引前利益等)を申告書上で開示することが求められる。
⑤移転価格算定方法
独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、取引単位営業利益法(TNMM)及び利益分割法。
ただし、TNMM又は利益分割法は、伝統的な取引基準法が適用できない時に限り適用されるべきであると考えられている。
⑥移転価格課税の時効
7年間(ただし、不正等があるときは無期限)
⑦罰則等
MIRBから同時文書の要求があった場合:要求から30日以内に文書を提出できないときは、(申告期限と)同時に作成されていないものと見なされ、ペナルティーが課される可能性がある。
移転価格課税が行われた場合:追徴税額の25%又は35%がペナルティーとして課される。ただし、移転価格調査を妨害したり、過去の調査でも独立企業間原則に従っていなかった場合などにおいては、前回の料率+20%(100%を上限とする)が課される。
なお、法令に則った充実した同時文書の準備により、ペナルティーについては最大全額免除を受けられる可能性がある。
⑧相互協議・事前確認申請(APA)
相互協議:マレーシア当局は相互協議の経験が多くなく、二重課税が排除できるかは疑問が残る。
APA:ユニラテラルAPA、二国間APA、多国間APAが可。ただし、合意に至るには困難が予想される。
⑨使用言語
移転価格文書はマレーシア語又は英語