インドの移転価格税制
【近年の動向】
インドの移転価格税制は、2001年の導入以降、OECDガイドラインに準拠した形で運営がなされてきた。近年では税務当局の経験値も積み上がってきている。また、APAも導入されることとなり、2014年には大手商社の第一号日印APAの実例も報道されるところとなっている。
特にIT、製薬、金融、自動車、化学関連の企業への調査が多くなっている。過去の傾向を考慮すると、損失を計上している会社、利益率の低い会社、支払ロイヤリティ料率が高い場合、費用の付け替え、マネジメントフィー、金融取引、組織再編などについては特に注意が必要であると考えられる。 また、移転価格調査に関しては 、調査対象を取引高よりもリスク多寡を基準として選定する考えも示している。
なお、従来認めていなかった複数年データの使用及びレンジの概念についても、国際的なプラクティスとの平仄を考慮のうえ、導入する予定となっている。
G20におけるコミットメントを念頭に、今後さらにBEPS問題への対応を踏まえた制度の整備も進められることが予想される。
【基本情報】
①税務当局
Ministry of Finance, Central Board of Direct Taxes (CBDT)
②移転価格税制の課税の対象
直接又は間接的な支配関係(同一の者に支配を受けている関係を含む)にある企業間の取引。また、以下の観点から「関連性がある」とみなされれば、移転価格課税の対象となり得る。
◆26%以上の株式の所有
◆取締役会の支配
◆原料又は製品の取引における影響力
◆無形資産の相互依存
◆借入又は保証の依存
なお、特定取引の額が5,000万インドルピー(INR)を超える時は国内取引についても移転価格税制の対象となり得る。
③文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)
I.国別報告書
- 条件:年度の連結総収入金額が750 million EURを超えている多国籍企業。当該条件は外国親会社の在インド子会社にも適用する。
- 対象初年度:2016年4月1日以降に開始する会計年度。
- 期限:会計年度終了から8か月以内に申告書と併せて提出。
- 使用言語:言語、提出フォーマットは未定。
- 代理提出:国別報告書の親会社代理提出は認めれている。海外に最終的親会社を持つ在インド子会社は、国別報告書を提出する親会社又は代理提出する子会社・恒久的施設(PE)の法人名、所在地を税務機関に通知する義務がある。
- 罰則:500,000 INR以下のペナルティー。
II.マスターファイル、ローカルファイル
- マスターファイル、ローカルファイルのガイダンスは、法令に導入される予定。
- 対象初年度、ペナルティーは国別報告書と同じ。
現行文書化ガイダンス
国際的な取引高が1,000万INRを超える場合、かつ/又は5,000万INRを超える国内取引がある場合には、移転価格文書を所得税の申告期限までに準備しなければならない。
また、当局から提出要請が合った場合には30日以内(申出により30日の延長が一度認められる)に提出しなければならない。
④移転価格に関する開示義務、
「Form No. 3CEB」において、関連者や国外関連取引の内容、移転価格分析等を記載し、提出しなければならない。なお、レポートには公認会計士の署名が必要となる。
開示義務を怠った場合、取引金額の2%がペナルティーとして課されることとなる。
⑤移転価格算定方法
独立価格比準法(CUP法)、原価基準法(CP法)、再販売価格基準法(RP法)、取引単位営業利益法(TNMM)、利益分割法及びその他の方法も適用可能である。なお、CBDTはその他の方法は無形資産取引等のユニークな取引に適用され得る旨を示唆している。
算定方法について優先順位は無い。
⑥移転価格課税の時効
48ヶ月(4年)
⑦罰則等
所定の情報や移転価格文書を準備・提出しない場合(誤った情報を提供する場合を含む):取引金額の2%
課税を受けた場合:追徴税額の100%~300%。
⑧相互協議・APA
相互協議:多数の国と租税条約を締結しており、ネットワークは広いが、移転価格に係る相互協議の経験は少なく、米国、日本その他の少数の国との合意実績があるのみである。
APA:ユニラテラルAPA、二国間APA、多国間APAが可。ユニラテラルAPAで実績を増やし、2014年末にはインドで初となる本邦大手商社との二国間APAの実績もある。匿名の事前相談が可能。
⑨使用言語
英語