移転価格解説

イギリスの移転価格税制

イギリス(英国)の移転価格税制

近年の傾向】

イギリスにおいて、移転価格の問題は政治的にも市民社会においても重要な位置を占めている。OECD/G20におけるBEPSの関する勧告の適用においても、このような観点から対応が進められている。例えば、2015年4月1日からは英国から利益を迂回させている場合に課されることとなる”Diverted Profits Tax(迂回利益税)”の導入も予定されているほか、BEPS行動計画を受けて国内税法やOECD移転価格ガイドラインの改定があった場合に備え、APAや過小資本課税に係る事前合意に税務当局が合意を終了させることができる旨の条項が盛り込まれるようにもなっている。なお、調査の重点項目としては関連者間の調達取引などが挙げられている。

【基本情報】

①税務当局
Her Majesty’s Revenue and Customs (HMRC)

②移転価格税制の課税の対象
直接・間接に経営、支配、資本等について関係がある国外関連者との取引。なお、一般的には51%の支配基準が設けられているが、ジョイントベンチャーの場合はその閾値が40%以上となる。

③移転価格課税の時効
原則として会計年度終了時点より4年。(例外規定あり)

④移転価格に関する開示義務、文書化しなかった場合のペナルティー
無し

⑤移転価格算定方法
独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、
利益分割法(寄与度利益分割法、残余利益分割法)、取引単位営業利益率法、その他の方法(導かれる結果が独立企業間原則に沿ったものとなるもの)

⑥移転価格課税に係るペナルティー
課税時の状況によってペナルティーが異なる。
合理的な対応がされている場合:無し
過失による場合:0〜30%
故意を含む過失による場合:20〜70%
故意・隠ぺいなどによる場合:30〜100%

⑦比較対象会社の選定
イギリスの税務当局は、イギリス企業を比較対象とすることを求める傾向にあるが、イギリス企業のデータが無い場合には外国企業を対象範囲とすることも認められる。

⑧相互協議及びAPA
イギリス税務当局は相互協議の経験も豊富で、多くの事案について合意に至っている。
また、APAについてはバイラテラル(二国間)APA、マルチラテラル(多国間)APA、ユニラテラルAPAが可能。対象期間は将来の3年〜5年間程度となることが一般的。

⑨使用言語
英語

2016年度改正】

2016年2月26日、国別報告書(CbCR)の提出の義務化に係る規則を議会に提出した。この規則は2016年3月18日より施行される。

新規則では、直前会計期間の連結グループ総収入金額が750百万ユーロ以上のUKに本拠を持つ多国籍企業の究極の親事業体は、年次国別報告書の提出が求められる。なお、場合により、UKに本拠を持たない多国籍企業も提出を求められる。本規則は、2016年1月1日以後に開始する課税年度からの適用となる。報告書は、会計年度終了から12か月以内に提出が求められる。