移転価格解説

オーストラリアの移転価格税制

近年の動向

オーストラリア(豪州)

(2014年12月現在)
2013年の移転価格税制の改定により、オーストラリア税務当局は、2014年後半に初の正式なガイダンスをリリースしました。このガイダンスにはreconstruction規定と、Tax Administration Act (TAA) 1953におけるSubdivision 284-E Schedule 1に対応した移転価格文書の作成方法の2つが含まれています。更にATOは改定後の罰則と、記帳の簡略化の適格基準の運用規定もリリースしました。

基本情報

①税務当局

Australian Taxation Office (ATO)

②移転価格税制の課税対象
オーストラリアにおいて、独立企業の原則と合致しない国境を超えた税制上の優遇措置が与えられている企業に適用。持ち分比率による規定は無く、実質的に価格操作が可能な状況にあるか否かで判断されることとなる。

③移転価格課税の時効
制限無し(取引相手国との租税条約に応じる)

④移転価格に関する開示義務
2012年度よりInternational Dealings Schedule (IDS) を導入し、国外関連者との取引金額、当該取引に係る移転価格算定方法や文書化の有無等、詳細な情報の開示が求められることとなった。
開示を行わない場合、最低25%のペナルティーが課されることとなる。

⑤移転価格課税を受けた場合のペナルティー
25%の加算税が課される。但し、悪質(租税回避の意図、経済合理性の無い取引)な場合は50%の加算税が課されることとなる。

⑥移転価格算定方法
独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法、利益分割法(寄与度利益分割法、残余利益分割法)、取引単位営業利益率法(TNMM)

⑦比較対象会社の選定
原則としてオーストラリアの会社を選定することが求められる。 信頼できる比較対象会社が国内に存在しない場合、外国企業を対象範囲とする。

⑧関税当局と税務当局の関係
他国に比して、関税当局と税務当局の結びつきが強い。

⑨相互協議
オーストラリアは相互協議の経験も豊富であり、二重課税を解消できる可能性は高い。

⑩APA
ユニラテラルAPA、バイラテラルAPA、マルチラテラルAPAともに可。
250百万AUD以上の取引金額の大きなAPAだけでなく、それ以下の規模の取引についてもAPAの合意実績がある。

⑪使用言語
英語

2015年度改正】

2015年末、オーストラリア議会はオーストラリアで活動する多国籍企業の新たな財務報告要件とともに以下の改正を可決した。

  • 新多国籍企業租税回避防止法(MAAL: multinational anti-avoidance law) – 2016年1月1日から適用
  • 租税回避防止ないし移転価格関係の調整に係るペナルティーの増額 – 2015年7月1日以後開始年度に係る調整から適用
  • 国別報告、マスターファイル、ローカルファイルの移転価格文書化要件 – 2016年1月1日以後開始年度から適用

これらの改正はグローバルの所得が10億オーストラリアドル超のオーストラリア及び外国の多国籍企業に適用される。

また、上述の改正を受け、議会は、オーストラリアで活動する総所得(total income)が2億オーストラリアドル以上の非公開会社に対して、特定税務情報を開示することを税務長官(Commissioner of Taxation)に求める、さらなる国内税務透明化法を導入した。なお、既存の法律にも同様の規定があり、公開会社とオーストラリアでの売上高が1億オーストラリアドルを超える外国企業グループのオーストラリア子会社に適用されている。

財務報告 – 大規模グローバル事業体(グローバル所得が10億オーストラリアドル超のグループの一員である事業体)は、オーストラリアでの活動に係る一般目的財務報告の作成が求められる。2016年7月1日以後開始年度からの適用になる。

国別報告、マスターファイル、ローカルファイル

OECDの勧告に沿って、2016年1月1日からの適用になる。オーストラリアに拠点があり、グローバル総収入10億オーストラリアドル超の企業グループは、マスターファイルとローカルファイルをATOに提出する必要がある。

国別報告書、マスターファイル

  • 期限:税務年度終了から12か月以内に提出。
  • 代理提出:代理提出を行う場合は、ローカルファイルにて宣言、国別報告書及びマスターファイルを提出する法人名を報告する義務がある。
  • 罰則:期限内、或いは所定の様式での報告義務に違反した納税者には、525,000オーストラリアドル以下のペナルティーが科せられる。虚偽等が判明した場合は、追加ペナルティー又は刑事罰も適用される可能性。

ローカルファイル

  • ローカルファイルは、現行文書化に加えて作成・提出する義務がある。
  • 期限:税務年度終了から12か月以内に提出。
  • 国別報告書及びマスターファイルの義務の過渡的免除を受けていても、ローカルファイルを提出する義務は残る。
  • 納税者の情報提供量は、関連者間取引額、売上高、移転価格リスク等の項目により2段階に分けられる。

租税回避と移転価格調整に係るペナルティーの大幅増額 – 2015年7月1日以後開始年度の所得に対して、税務長官が行う調整に適用される。ペナルティーは、追加税額の最高100%である。合理的な論拠(reasonably arguable position)があれば、この高いペナルティーは課されないが、移転価格については、適正な移転価格文書が関連年度の確定申告書の提出時までに作成されている場合に限られる。