移転価格解説

5分で分かる事前確認

事前確認(APA)とは

調査・課税を回避するために活用できる唯一の制度

移転価格税制は、「議論の税制」とも呼ばれ、同じ事案に対しても立場や国が違えば検証結果が変わり得るという側面を有しています。

このように、グレーな部分がある税制であるがゆえに、企業としては租税回避の意図が無いにも関わらず課税を受けてしまうこととなり、追徴課税による突然のキャッシュアウトは経営にも影響を及ぼしかねません。

そのため、企業が今後数年間行う国外関連取引の価格設定(及び、ケースによっては過去の価格設定)について、税務当局から事前に確認を取ることで、移転価格調査・課税を回避する制度として、事前確認(Advance Pricing Arrangement, APA)という制度が設けられています。

APAには、取引を行う両国の税務当局から確認をとる二国間(バイラテラル)APA、一国内で確認をとる国内(ユニラテラル)APAに大別されます。

バイラテラルAPA

両国における調査・課税の回避というメリットと、コスト・実行可能性を天秤にかけて判断

移転価格税制の問題は、国家間の所得配分の問題であるため、課税リスクをゼロにするには、取引を行う両国の税務当局から確認をうける必要があります。この場合、納税者が申請した取引価格の設定方法について、両国の税務当局が「相互協議」と呼ばれる国家間協議の場で話し合いをし、所得配分について協議を行います。両税務当局が合意すれば、申請した取引について3年~5年程度、移転価格課税を受けないこととなります。

バイラテラルAPAは、合意を得られれば課税リスクをゼロにできるため、有用な制度ではありますが、一方で協議には2年程度の期間を要し、現実的には両国でアドバイザーを雇う必要があるため、APA取得にかかるコストはそれなりに高額になってしまう傾向があります。

また、近年では中国を筆頭としてタイインドネシアなどのアジアの新興国との取引が重要となってきていますが、これらの国では移転価格に関する経験が乏しく、合意までに時間がかかったり、先進国と新興国との考え方の隔たりから合意自体できなかったりする(協議が決裂する)リスクも十分にあり、申請したからといって必ずしも確認が取得できるとは限らない面があります。

したがって、バイラテラルAPAを申請するかどうかは、調査・課税の回避というメリットと、コスト・実行可能性を天秤にかけて判断することになります。

ユニラテラルAPA

リスク回避は一国内に限られる一方で、申請のしやすさから活用余地あり

これまで事前確認を取得する企業は国外関連取引の額が数百億から数千億となる超大企業が大半であったことと、取引相手として米国や欧州などの先進国の重要性が高かったことから、バイラテラルAPAを意味することが多かったように思われます。こうした超大企業にとっては、コストをかけても費用対効果は十分にあり、取引相手国が先進国であったことから協議も比較的スムーズに進んだため、バイラテラルAPAが有効でした。

しかし、近年では課税の対象が中小・中堅企業にシフトしてきていること、重要な取引相手国が中国及びアジアの新興国にシフトしてきたことにより、確認を取得できる現実性とコストパフォーマンスからユニラテラルAPAの重要性が増してきているように思われます。

所得配分が不利な状況に置かれる当局側でのAPA申請の審査は相応に厳しくなりますが、やむを得ない理由で一方の国で課税リスクが高い場合には当該国におけるユニラテラルAPAの申請は合理的な選択肢になると考えられます。

代替案としてのローカルファイルの作成等

費用対効果の観点で、ローカルファイル等の作成による対応が合理的なことも多い

どのようなAPAであっても、相当の時間や費用の負担は覚悟する必要があります。実際、超大企業であっても、APAでカバーしている取引はごく一部です。

このような点を考慮すると、特に中小・中堅企業にあっては、コストをかけて無理にAPAを取得するよりも、移転価格税制の理論に基づいた価格設定ポリシーを構築し、調査の際にもスムーズに説明ができるようローカルファイル等の文書化を行っておく方が、費用対効果の面から見ても得策になることが多いものと考えられます。